――自分が驕っていたことに気付く。


「……民や国を守る為、か」


静かな山崎の言葉に、何らかの含み――悲しみと自嘲だろうか――があるように聞こえたのは、光の気のせいだろうか。


疑問を抱いていると、山崎は読んでいた書物をパタリと閉じた。彼はおもむろに立ち上がり、光の傍に座る。


後ろめたさで顔が上げられない光は、視界の端に映る、山崎が着ていたの夜着の裾をじっと見つめていた。


「――よう分かっとるやん。ええか、もう不毛な復讐なんざ金輪際、止めたれ。その覚悟、後生大事に持っとればええ」


いつの間にか山崎の口調は、素の優しいそれに戻っていた。つられた光が視線を上げると、彼の冷たかった瞳には、穏やかな色が映っているのが分かる。


視線が絡んだ光は、戸惑ったように視線を彷徨わせる。すると、山崎は小さな吐息混じりの苦笑を浮かべた。


「……俺がお前を守ったるって言うたやろ! だからお願いや。あないな危ないこと、もう一人ですな」


何言わせるんや、この阿呆! ハズカシわ! と顔を背ける山崎は、僅かに耳が赤かった。


しかしながら、光には言われている意味が全く理解できず、「え……っと?」と、説明を求めるように眉を寄せる。


「……任務でも無いんやから。非番のときくらい、もっと俺を頼ったってええんやで? それとも何や、俺はそない頼りないん? せやから一人で行ったんか?」