「……はい」と答えた光は、一呼吸の間を置くと、何かを話しかけた山崎を遮るようにして再び口を開いた。


「しかし私は……女の身であることを口実にして剣の道から外れることは、絶対にありません……!」


そう叫ぶように言えば、目頭が段々と熱くなっていった。それは形容し難い感情が胸に渦巻いているせいだ。


いつの間に力が入ったのだろうか。膝に置いている拳は、あまりにも強く握り締めていたせいで白くなっている。


「覚悟があるのか、本当の覚悟が」

「……はい。復讐の為ではなく、民や組を守るために……。確かに今の私には無理でしょうが……いつかは――……」


土方のように誰かのために鬼になれるような、強い意志を持った誠の武士になりたい。
そして、山崎のように有能で強く、組を心から思いやることが出来る忍になりたい。


(でも……今の情けない私に、そんな大それた身の程知らずなことを言う資格があるんだろうか……?)


喉まで出掛かった言葉は、発せられる直前で止まってしまった。


表面的には復讐の思いが多少薄れている。しかしながら、光を作り上げている大本はそれなのである。


声を大にして言いたいことは沢山あった。夕餉を取りながら、何を言おうか考えていた。そうであった筈なのに、口に出して言うことが出来なかった。


相応しくない言葉。自分とはかけ離れ過ぎて、思わず躊躇してしまうほど、光はまだ武士としても忍としても未熟なのだ。