あの世界は、今の江戸後期には考えられないほど便利過ぎる世の中である。


身分の違いはなく、男女の差別も昔ほどにはない。飢饉などで餓えることは殆どなく、国家の法に守られている。


しかし、人間はその便利さに影響されて、自分たち自身の将来を危うくしていることに気付いてはいない。


志は何もない無気力な若者が増え、労働力は低下する一方である。笑いながら他人を嘲る人々は、昔にあった大和魂が消えてしまっている。


――人間は堕落した。そう感じている。


だから、斬った張ったの争いが横行したとしても、光はこの世界が嫌いではない。


あんな便利な世界が何を生む?


確かに生活は楽にはなるだろうが、それ以上に大切な何がが失われてしまう。


擦れた心。今後流れる沢山の血。終わらない戦。


あの世界は“足るを知る”という言葉を知らないかのように、欲に汚れている。