(では、なぜ止めない)


そう思ったが、聞くことは躊躇われた。


「では失礼致します」


最後まで礼儀を欠かなかった光は、足早に八木邸を抜けると、近藤派や大勢の隊士が住まう前川邸に入った。


「光さん」
突如、横合いから声が聞こえた。


壬生浪士組内で、光さんと呼ぶ人は沖田か山南しかいない。少し低めの声だった為、暗がりでも、山南だと直ぐに分かった。


そちらに顔を向けると、案の定、少し焦ったような表情の山南が光の元に走ってくるのが見える。


「山南さん、こんばんは。お疲れ様です」


近くまで駆け寄ってきた山南に向かって声を掛けると、彼は乱れた呼吸を整え、光の両肩に手を乗せた。


目には少しだけ怯えが混じっていた。


「……光さん。芹沢さんに連れて行かれたんでしょう……? 大丈夫でしたか?」


「ええ。少しお話をしただけですよ」