「――井岡、お前は周りにある幸せを大切にしろ。誰もがお前を信じている。何を恐れているのかは知らぬが、お前も信じる心を持て。

……それとな。自分を本気で叱ってくれる奴を大切にしろ。そういう奴こそが、本当に自分自身を思ってくれてるんだ」


そう言う芹沢の瞳は、『誰のことかわかるだろう?』と問うているように見える。


「……私……、烝に謝らないといけませんね。いつも私を思って言ってくれるのに、その心を蔑ろにしてばかりです……」


「そうか、分かっているのなら早く行け」


まるで、猫でも追い払うように手のひらを払うと、芹沢はふっと視線をそらす。


その様子がまるで照れているようにも見え、光はにっこりと笑って大きく頷いた。


「――はい。ありがとうございました」


「もう帰るん……? ほな、またなあ」


残念そうな表情をした梅だが、すぐに綺麗な顔に優しげな表情を浮かべた。


二人に深く礼をした光は、襖を開けて外に出る。すると、すぐ横に新見が壁によりかって腕組みをして見ていた。


「――……新見局長。差し出がましいかもしれませんが……芹沢さんも、派手な行動にはお気を付け下さい。詰め腹をする羽目になるやもしれません」


「分かっている」
苦々しく呟く新見。どうやら先日の大和屋の事件にも、派手だという自覚はあるらしい。