師が奪われたこと。

復讐の為に壬生浪士組に入隊したこと。

山崎とは当時の兄弟弟子であること。

そして今日、山崎から叱咤されたこと。


大まかな事をあらかた話し終えると、芹沢はしばし沈黙した。


目を瞑って押し黙り、扇いでいた扇子をパチンと閉じると、芹沢はわざとらしく、大きな嘆息を一つついた。


「……復讐、か。亡き師の為とは殊勝なことだ。だがな……井岡。

貴様はそれで生きていると言えるのか? 生きる目的がそれで、貴様は自分の人生を歩んでいると言えるのか?

貴様のそれは“逃げ”だ。己の足で立つことが怖いだけだ。何時までも師に頼ることしか出来ない愚か者だろうが。

今の貴様は、親離れが出来ない甘ったれた餓鬼と言ったところだ。

違うか?
違わないよな」


「…………はい」


真摯な口調で宥めるように言う芹沢。光も真剣な眼差しで芹沢を見つめる。


「なあ井岡。あまり大きな声では言えぬが、儂はこの組が大切だ。あの鴨が何を、と思うかもしれんが……事実なんだ。

近藤や土方、山南も……勿論儂らも。山崎烝だってきっとそうだろう。皆、此処を守りたいと思っている。

彼奴らにとっては夢なんだ。
――武士というものは、な。

貴様も“男”として刀に矜持があるのだろう?……少しずつでいい。壬生浪士組(ここ)を知れば、きっと命を懸けて護りたくなるだろうよ」