(何時までも、甘えたら駄目だ……)


何と答えようか……、と脳内で考えを巡らせていると、視界の内に芹沢が扇子を取り出して扇いでいるのが目に入った。


「儂は貴様の本心が知りたい」


「……本心」


「そう、本心だ。
女の身でありながら、よくぞそこまで鍛錬を積んだな。それは何か訳があってのことだろう?」


少し口調を優しいものに変えた芹沢は、黙り込んでいる光を見て、頬を緩めて微かに笑ってみせた。


それを見た光は、少し息を吐き出した。芹沢を睨みつけていた鋭い視線を、いつもの涼やかなものへと変える。


何故だろう。
この男を信じていいような気がした。


この男のことだから、そんな笑顔も全て演技であっても可笑しくはないのだが、なぜだか疑うことはなかった。


「……私には」


僅かに逡巡したが、光は間を置かずに言葉を紡ぐ。


「尊敬し、敬愛する先生がいました――……」