――先生に拾われなければ、あたしはとっくの昔に死んでいた……。だったら、この命は先生の為に使う――


教えを渋る先生に無理を言って刀を習い始め、毎日血のにじむような稽古を耐え抜いた。


全ては先生を守るために。だが、今思えばただ彼に依存していたのだと思う。


拾われた時から、光は先生に支えられて生きてきた。時代錯誤である幕末の勝手など分かるはずもなく、先生が居なければ立つことさえできぬ、ただの赤子の存在同然だったのだから。


――そんな存在を奪われた。


いきなり足元の地面が消失したかのように、あるいは自分を支えていた糸が途切れたかのように。ただ、光は心が暗闇に堕ちていった。


人は殺さない……、と先生と誓ったことは事実。しかし、光はその日から女と決別し、刀を携えた独りの侍になった。


頭に渦巻く怨嗟の声は、光に刀を持たせ、未来人にして人を殺めさせるという禁忌を犯させることとなった。


――先生を守るという存在理由。


それを失った穴を埋めるように、光は二年の間、先生の知り合いや縁者を探し回った。


時には危ない賭事に手を出したり、情報を対価に暗殺の真似事もして、この両手を少なくはない血で濡らしたのだ。