――見るな。


――僕を、私を、俺を見ないでくれ。


――光を守りたいと思っているのに、腹に黒く渦巻く『壊したい』という衝動が、俺をとらえてはなさないんだ。


ぼんやりと自らの思考の内に沈み込んでいると、横側から光が顔を覗かせ、心底心配そうな表情をしているのが目に入った。


「烝……大丈夫? さっきからぼんやりしてるけど……もしかして暑いのか?」


「……何にもない。それより光、この後はどこ行きたいんや? 早よせんと、俺は当分今日しか休み無いかもしれんなぁ」


冗談でそんなことを言ってみると、光は何かを呟きながら、慌てたように行きたいらしい場所を指折り数え始めた。


そんなにあるんかい……。


呆れた山崎は、光を半眼で眺める。そんな山崎に気付いた光は、眉間に小さな皺を寄せ、唸りながら呟き始めた。


「うん……どうしようか……。烝が誘ってくれたんだから、行きたい所ないの?」


「……俺の行きたい所?」


まさか、そう来るとは思っていなかった山崎は、思いがけないことを言われ、とても驚いた。


山崎は最初から光を街に連れ出し、どうにかして楽しませることが目的であったため、思わず空の頭に考えを巡らせる。


「…………無いなぁ。光の行きたい所に行けばええやん」


必死に頭を働かせても、自分の行ってみたい場所などない。ある程度の場所は、監察として自らの頭に入っているため、今更行きたい場所など咄嗟に思い浮かばなかった。


だが、投げやりになってしまった山崎の声にも光は笑う。まるでかつて兄弟弟子であった頃に舞い戻ったかのように、懐かしさで胸が軋み、衝かれた。


「そっか。じゃあまずは……甘味処!」