昔の純粋な『下川光』とは決別し、復讐に命を捧げる男『井岡光』として、この幕末を生きると。


やがて江戸時代が終結し、自分のいる『新撰組』が瓦解しようとも、倒幕を目論む浪士だけに刃を向け続ける。


先生は『阿保か、お前。それともその歳で耄碌したか?』などと言って、きっと復讐を望まないだろう。


しかし、光が下手人を赦すことはない。





「――――かる。 光?」


障子の外から山崎の遠慮がちな声が聞こえた。長い時間、衣擦れがしなくなった室内を怪訝に思ったのかもしれない。


声を掛けられたことで、始めて自分がぼんやりとしていたことに気づいた。


「ごめん……今行くよ」


障子を一気に開けると、背を向けて柱に背中を預けた山崎が、その顔だけをこちらに向けた。


「遅かったな」


「だからごめんって言っただろ」


少し眉間に皺を寄せている山崎へと、気にするなというように、光はひらひらと右の手の平を振った。


「……そんなに怒るなよ」