「なあ光、井戸に行って汗流そうぜ!」


キラキラと目を輝かせてそういう藤堂だが、光の表情からは笑みがスッと消え去り、少し強張ったものになった。


(汗なんか流せるものか。
直ぐにバレるだろうが……)


そう感じた光は一呼吸の間を置いて言う。
「――いや、遠慮しておく。そんなに汗はかいていないからな。悪いが少し用事があるんだ」


「そっか……それじゃあ仕方ねえ! また夕餉の時に会おうな」


少し残念そうに眉を下げて言った藤堂は、同じ組の隊士を何人か連れ立って、井戸のある方向に行ってしまった。


彼らが角で見えなくなるまで見送った光は、速まった心臓の動悸を静めようと、ソッと息を吐く。やがて踵を返し、自分の部屋の方へと足を向けた。







「光」
自室の襖を開けた途端、突如、背後に気配が現れる。ハッとして振り返ると、そこには見慣れた顔があった。


「烝!」


「稽古、お疲れさん」


目を見開いている光の傍によると、山崎はふわっと柔らかい微笑みを浮かべた。そして僅かに乱れた光の髪をそっと撫でる。