嫌な噂が流れていたせいで、沖田に勝ったことも脚色だと思われたのかもしれない。


最初は“井岡光”という人物を嘗めきっていた隊士もいたが、それは直ぐに考えを改めざるを得なかった。


誰一人、勝てないのだ。組長であったとしても、ようやく小手一本を奪えるくらいで、光の胴を抜いた者はいない。


「……また松原組長と平助だけか……」


藤堂と四番隊組長の松原忠司以外では、ほとんどの隊士が膝をついて、荒い呼吸を繰り返している。


それは光がした攻撃が強いのではない。突きは軽くしかしていないし、強烈な胴が決まった訳でもない。ましてや、面に攻撃をしないのは光の方針の一環。


そもそも、面以外の防具をしっかり付けている隊士たちは、ほとんど痛みを感じていないはずだ。


それは、無駄な動きによる体力不足だった。


「……ぅっ……くそ!」


今にも膝を着きそうになっていた1人の隊士が、竹刀を支えにしてなんとか立ち上がろうとしていた。


疲労によるものか、その動きは当初より鈍くなっている。


策を弄する余裕もないらしく、隊士は単身で捨て身の攻撃をしかけてきた。