「大切にされてるんだな。あいつの素で、あんなに口数が多いのを見たのは、あの時が初めてだ」


土方は優しく笑う。部下の無礼な態度に怒る事もなく、ただ柔らかい表情を浮かべて――。


光は茫然とした。


一体誰だろう。この人を鬼の副長と呼んだのは。こんな優しく笑う人が鬼な訳がないというのに。


組織には器の大きな大将、そして憎まれ役が必要だ。土方はきっと、それを進んで買ってでたのだろう。


同じ副長の山南には、嫌われ役をさせまいと。そして局長である近藤には、自分が汚れを負うことで、汚れなき武士の手で隊士を導かせようとしている。


彼の微笑みは、滅私奉公。


誰にも言わず、眉間に皺を寄せ、優しくて柔らかい表情を押し隠して――。


誰よりも優しく、誰よりも誇り高い、孤高の武士である土方に、激しいな憧れを抱いた。


「土方副長」


「どうした?」


「私は…………貴方のような武士になりたかったです」


壬生浪士組に大切な人を作らないと決めたのに、どうしたものか。久方ぶりの感覚、衝動が止まらなかった。


彼が先生に似ているからだろうか。いや、そうではない。私は『土方歳三』に憧れている。


――人間は、自分では決してなれないものに憧れを抱く生き物なのだ。