「――鼠(ネズミ)がいます」


「…………そうか」声が低くなったくらいで、意外に土方の反応は薄いものだった。「…………何処の奴だ?」


「さあ……私に殺気を向けてきます。単に私が気にくわないかもしれませんが……あの殺気……隊士に忍がいるのかもしれませんね」


沖田との入隊試験を終えて、近藤の部屋に行ったときのことだ。刺すような視線が身体を包み、少し寒気を覚えた事がある。


――随分前の事で、失念していた。


その事をそのまま土方に伝えると、土方は元々険しかった眉間の皺をさらにきつく寄せた。
「……何、殺気だと?」


「誰かわかりませんが……私にいい感情を抱いていないことだけは確かです」


噂によって陰口を叩いているうちは、まだ捨て置いても良かった。だが、稽古中でもないのに、仲間へ殺気を向けるのは流石に戴けない。


土方も思うところがあったのだろう。しばらく思案顔になり、何かを思いついたように「ああ、井岡」と声を上げた。


「お前に隊士の指導を頼みたい」


「指導、ですか」


「そうだ。お前なら、平隊士たちの実力をどう見る? 素直な答えで構わない」


それは考えるまでもない。
素直に答えることを許してもらったため、心のままに思ったことを紡いだ。