(……こいつ……また座敷に逃げ込んで暴れるつもりか……ならば、その前に消す!)


心には、暗く重苦しい殺意がとぐろを巻いた。だが光は、媚びへつらうような薄い笑みを唇に滲ませ、なるべく小者に見えるように振る舞う。


――自分でも反吐が出るのだが。


「でしたら、私が働いている店にいらっしゃいませんか? きっと、お侍様がお気に召すような、上等な酒と芸妓がいますよ」


「……お前は下男と言ったな……よし! ならばお前の店まで案内してくれ」


「――――ええ、喜んで…………」


完全に男は酔っているようだ。酒で気が大きくなっただけかと思ったが、物事に対する判断力はとうに失われているらしい。


酒が飲みたいのか、あっさりと光の言うことを信じた愚かなる男。


道案内を買ってでた光は、「向こうの通りにあるんです」と言って、明かりが届かない小路に入った。