隣に立つ山崎は、口元に引きつった笑みを浮かべながら光の頭を押さえ込み、ぐっと強い力を入れた。


本気でないこと、山崎が苛立ちに近い感情を抱いていることが分かった。
わざとらしく顔を歪めた光は、「烝……痛い」と言い、何とかその手から逃れる。


「何を気に入ったんかは知らんけど……。成る程。せやからあないな噂が――……」
「噂?」


なんだそれは、と疑問に思って聞き返す。すると、山崎は土方を遠慮がちに見た。土方も気になるようで首を傾げている。


気まずそうに目をそらす山崎は、重そうな口ゆっくりと開いた。


「……隊士達が噂しとるんや。『監察方の井岡は、身体を使って局長らに取り入っている』言うて」


「……。何だその噂……」


そのあまりにも根も葉もない噂に呆れる。聞いた土方も、まるっきり信じていないようで、半眼になっている。


想像だにしなかった噂の内容に、全身に入っていた力が抜けていくのが分かった。


(誰だそんなこと言ったのは……。腹が立つというより、呆れるな。そもそも私は“男”だっていうのに、身体……?)


そんなに男には見えないのだろうか。「私にそんな趣味はない」と、光は力無くうなだれてしまう。


「だろうな。
だが……新入隊士でいきなり監察と副長助勤になったヤツがいたと思ったら、やけにツラがいい優男……」