自身を叱咤して、木刀を握り締める力を入れた。前を見る。だが、山崎の姿は無い。消えた。視線は外していないのに、一瞬で消えてしまった……! いったい何処に――、

「……!」


目前に迫るのは、木刀だった。防具をつけていない今の状態で当たれば、たとえ木刀だろうと重傷は免れない。


「っ! ッ――……」


間一髪、脇差しで軌道を変えた。


身を低くして地面を蹴り、背後から斬りかかるが読まれていた。余裕綽々といった涼しげな顔で正面に立っていた山崎に、激しい怒りが湧き上がる。


くそ、くそ……! いつもだ。いつも勝てないのだ。掠りもしない木刀。光を遥かに上回る身軽さ。


何故勝てない。何故こうも勝てる気がしない。強くなれない自分に対しての苛立ち。考えれば冷静を奪われ、勝算は下がる。


「昔からの悪い癖だ。考えると身体の動きが鈍る。考えで補える程、戦いは甘くない。反射的に動け」


こうも正論を吐かれると、耳に痛いどころかむしろ清々しいものがある。心に素直に留め、構え直す。