「どないした?」


心配そうに光の顔を覗き込んだ山崎は、泣き叫ぶ赤子を優しくあやすように、よしよしと光の頭をそっと撫でる。


二人が兄弟弟子だった昔から、山崎は稽古のとき以外は、今のように光を子供扱いしていた。昔はともかく今は十九歳だというのに――……。


「なんや、拗ねとんのか」


「拗ねてない……」


そう言って山崎から顔をふいっと逸らした光は、拗ねていると言う他に、形容することができなかった。


「嘘吐きなや。ほんま餓鬼やなぁお前」


「餓鬼なんかじゃない!」


自分でも、まるで昔に戻ったような餓鬼振りだとも思うのだが、懐かしさもあり自然と嫌に思う事は無い。


いつもは愛想笑いを顔に貼り付け、優雅で隙がない立ち振る舞いを心掛けている。


――それは侍となった二年前から、壬生浪士組に入隊する間の事が原因である。その時に、人は簡単に信じることが出来ないということを知ったのだ。


昔馴染みである山崎だからこそ、光が信じることが出来るのだ。