しかしながら、切れ者である土方が両手が血に汚れているこの小僧の危険性を、察知できていない筈がない。


敵ではないのだろう。そう思いながらも、芹沢は仲間に引き入れるほど、この小僧は信用に値する武士ではない、という判断を下した。


(お前は……近藤派だな)


「……ふん。新見、行くぞ」

「はい」


鼻を鳴らした芹沢は踵を返す。そして芹沢たちは、隊士の作った出迎えの列を堂々と歩いていき、八木邸内に入っていった。


彼らが見えなくなったその途端、緊張の糸が解けたように、いきなり辺りがザワザワと騒がしくなる。


「井岡! お前、勇気あるなぁ!」


「あの芹沢さんに敬語を使わないなんて……寿命が縮むかと思ったよ」


近付いてきた原田と永倉は、興奮気味に話し出した。それほど、普段の芹沢は恐怖の対象なのだろう。そして光は命知らずの馬鹿、と言ったところだろうか。


寄ってくる人々と適当に雑談しながら、芹沢に襲われたとき、咄嗟に藤堂へと預けた風呂敷を彼から受け取った。


「てめえら! さっさと戻れ!」
と、土方の怒号が響く。


怒鳴られた隊士たちは、蟻が散るようにさっと自分の行くべき場所へと、逃げるように去っていった。


暇を持て余している光は、先ほどの愚行を土方から責められる前に、取り敢えず部屋に戻ることにした。