いつの間に移動したのだろうか。その場にいる誰もが、光から目を外してなどいないはずなのに、彼女は芹沢の背後に悠然と立っていた。


刀こそ抜いていないものの、体には余分な力が入っておらず、いつでも抜刀が出来るような自然体だということが分かる。


しばらく誰もいない鉄扇の先を見つめていた芹沢は、自身のそれを閉じると、ゆっくりと振り返って不敵に笑ってみせた。


「――ただのひ弱な男かと思ったが……面白い。井岡光、覚えておこう。儂は筆頭局長の芹沢鴨だ」


「俺は局長の新見錦」


二人の局長が名前を名乗る様子を見つめた光は、硬くなっていた表情を和らげ、「よろしくお願いします」と言った。


先程までの荒い口調はどこへやら、光は慇懃無礼なまでに頭を下げて控える。


しかし、芹沢は直ぐに見抜いた。


――目の前の小綺麗な少年は、口元は常に柔らかい笑みを浮かべているが、誰も信用していない凍てついた眼をしている。

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芹沢は鼻が利くのだ。華やかな外見とは裏腹に、両手に染まっている決して少なくはない血の量は芹沢にある種の恐怖すら抱かせた。


まるで人斬り――……。
そうひしひしと感じる。