「お願いだから…っ、何も聞かずに……呼んでください……。」
「………瑞華。」
担任にしては比較的小さな声だったけど、確かに聞こえた。
何も聞かないで、ただ自分の名前を呼んでくれただけなのに、あたしは思わず涙が出そうになった。
もう一度……たった一度だけでいい。
紫苑に、"瑞華"って呼んでほしかったな……。
ちょっとでも気を緩めれば涙腺が崩壊しそうなのを抑え、担任の目を見る。
「今まで……短い間だったけど…、お世話になりました……。」
ちゃんと……笑えたよね?
軽くお辞儀をして、あたしは走って校門まで向かった。
これ以上あそこにいたら、涙が溢れ出しそうだし、何より紫苑達に遭遇してしまいそうだったから…。
「泣きそうな顔で渡されてもなぁ…。」
あたしが行ったあと、担任が退学届を見ながらそう呟いたことは、あたしはもちろん知らない……。