「これも全部、結衣のおかげだね。」


「うん、そうだね・・・」


「そんなことないよ、
みんなが頑張ったからやん。
みんなが一生懸命、
今日の日のために練習したからやん。」


「結衣・・・」


ホントみんなよく頑張ったよ・・・


自分たちの全部を出し切って、
お客さんに見てもらおう、
楽しんでもらおうって
その想いで頑張ったからやで。


「でも、結衣がいてくれたから
私たちは頑張れた。」


「うん、そうやで。」


「みんな・・・」





「こんなの初めて・・・」


「うん。」


「初めて?」


「うん。 こんなに
熱くなれたのは初めて!!」


「そっか・・・」


「結衣、ありがとう。」


「うん。」


私はこのライブの感覚を
みんなが知れたことが
すごくうれしかった。


私だって鳥肌立ったよ。



みんなはこれからもっと
この感覚を知っていくんだろうなぁ・・・


そう思うとなんだか羨ましくなった。





「けど、これが最後やねんね・・・」


「うん・・・」


「えっ!? 最後!?」


「うん・・・」


「どうゆうこと?
最後って・・・何!?」


「結衣・・・
私たち、解散するねん・・・」


私の問いに、麻帆が呟くように答えた。



「解散・・・?」


「うん・・・」


あまりにもの衝撃な言葉で
私はその場で固まってしまった。




「ボーカルが辞めた時にね、
みんなで話し合ってん。
これからどうするかって・・・」


「・・・・・」


「もちろんプロを視野には入れてた。
でも正直、みんなそこまでの
思い入れもなかったし、
それに限界も知ってた・・・

みんなそれぞれの道があって、
これからはそっちに行こうって・・・」


「そんな・・・」


「みんなそれで納得してる。
だから最後にこんな最高な
ライブが出来てホンマによかった。
結衣、ありがとう・・・」


そう言って麻帆は微笑んだ。



麻帆・・・


そして私たちは
打ち上げ兼、お別れ会を
ちかくの居酒屋でやった。


みんなバカみたいに騒いだ。


主に話は今日のライブのこと、
本当に楽しかったんだろうな・・・


みんな、このまま辞めても
後悔はないんだろうか・・・



会もお開きになり、
私たちは新たな道を誓い解散した。


『また会おうね。』


その言葉を残して・・・



『また会おうね。』
、かぁ・・・


私はふと昔のことを思い出した。


「結衣、帰ろうか?」


「うん・・・」


私は暗い夜道を麻帆と
二人で歩いた。



「結衣、本当にありがとね。」


「えっ!?」


「めっちゃ楽しかった。
こんなの久しぶりやった。」


「麻帆・・・」


「今のメンバーはね、
みんな本気じゃなかった、
趣味程度でやってたんだ。」


「・・・・・」


「そりゃそうだよね、
みんな生活があるし、
これからのこともちゃんと
決めていかないといけない。
本気でバンドはできないよ・・・」


「麻帆・・・」




「でも最後にこんな最高な
ライブが出来てホントによかった。
みんなめっちゃ喜んでたよ。」


「うん・・・」


「これでみんな普通の生活に戻る。
普通の生活に戻って行く・・・」


麻帆・・・


「って、言ってもプロじゃないから
普通に戻るっておかしいか?」


「フフッ、そうだね。」


そう言って笑った麻帆の笑顔が
とても悲しく見えた。



私たちも・・・
そうやって解散した・・・


あの時、麻帆はもっと・・・
もっとバンドを続けたかったんだ・・・


もっとステージの上に
いたかったんだ。


それなのに私たちは・・・



「麻帆!!」


「んんっ!?」


私の呼びかけに振り返る麻帆。



「もう辞めてまうの?
それでええの?」


麻帆はフッと笑って、

「仕方ないよ、
もう誰もおれへんもん。」


私はその言葉に胸が
ギュッと締め付けられた。


私も、バンドのみんなも
もう違う道を歩き出した。


それぞれに目的を持って、
自分の道を歩き出したんだ。


麻帆だけが・・・
立ち止まっている・・・

この場所に立ち止まっている・・・



できることなら麻帆と
バンドをやってあげたい。

いや、一緒にやりたい!!



でも、それはとても難しくて、
中途半端な気持ちではできない。


それをわかっているから
麻帆も私に何も言わない。



麻帆、ごめんね・・・


私は何も応えられずに、
麻帆の背中を見ていることしか
できなかった。