「菊池さん、待ってください!!」
私は走って菊池さんの後を追い掛けた。
「んっ!?」
菊池さんは私に気付き振り返る。
「待ってください!!
ハァハァ・・・ ハァハァ・・・」
「どうしたの?
そんなに走って・・・」
「ハァハァ・・・あのぉ・・・
ハァハァ・・・」
私は真っ直ぐに菊池さんと向き合った。
「よろしくお願いします・・・」
「えっ!?」
「その・・・えーっと・・・」
「ってことは・・・
付き合ってくれるの?」
「はい・・・」
私は上手く言えずに
「はい。」と
頷くことしかできなかった。
「そっか・・・」
菊池さんはニコッと微笑んだ。
それに釣られて私も微笑んだ。
菊池さんはゆっくりと近寄って来て、
そっと私の手を握った。
ドキッ!!
あっ!!
「ありがとう・・・」
私は胸がキュンとなった。
あったかい・・・
私は恥かしくて、
菊池さんの顔をまともに見れなかった。
私、人生二度目?
いや、正式には人生は初の
彼氏が出来た日だった。
そんな風にして私たち、
雅宏との交際が始まった。
私たちは毎日のように
会社帰りにデートをした。
お互いが残業の日ももちろん、
片方が残業の時も
終わるのを待ってデートをした。
手を繋いで街をブラブラしたり、
美味しいもの食べに行ったり、
カラオケに行ったり、
ショッピングしたり、
毎日が新鮮で本当に楽しい。
こんなの初めて・・・
ずっとこんな生活に憧れてた。
バンドをやってる頃は
こんなこと出来なかったし、
毎日が忙しくて暇がなかった、
だからずっとこんな生活を
送ってみたいと思ってたんだ。
だから今が本当に楽しくて、
うれしい・・・
これが人を好きになるってこと、
これが付き合うってこと・・・
毎日が恥かしさと嬉しさで
いっぱいなんだ。
それに菊池さんのこと・・・
いや、雅宏のことを本当に好きなんだ。
ずっと一緒にいたいくらい
大好きなんだ!!
雅宏、ありがとね。
私、とっても幸せだよ。
私はこんな毎日を
絶対に失いたくないと思った。
そして土曜日、私はいつものように
初音の家へと向かった。
毎週、土曜は初音の家、
日曜は雅宏とデート、
だいたいそう決めていた。
「じゃあ、今日もやりますか?」
「はいな。」
ジャラ~ン♪
「行くよ!!」
「はいな!!」
私たちはいつものように
演奏に夢中になった。
一曲ごとにみんなのテンションは
上がって行く。
楽しい・・・
みんなとのこの時間も
たまらなく幸せなんだ。
私は今、本当に幸せなな毎日を過ごしてる。
でも・・・
でも何か足りない・・・
「ちょっと休憩いれようか?」
「うん。」
「はい、みんな。」
初音が私たちに飲み物を持って来てくれた。
私にはオレンジスカッシュ!!
麻帆にはコーヒー、
そして栞にはビール!!
「初音、わかってるぅ~。」
栞はプシュッとビールを開け、
ゴクゴクと喉を鳴らす。
「栞は昼間からお酒?」
そう言いながら私も
オレンジスカッシュを
ゴクゴクと喉に流し込んだ。
「絵里奈から連絡は?」
初音は首を横に振った。
「そうか・・・ 絵里奈
帰って来ないのかな・・・?」
「退院はしてるみたいやねんけど・・・」
「退院したんか?」
「うん、病院に聞いたら
退院したって・・・」
絵里奈・・・
みんなそれぞれに遠い目をする。
そうだ、ちょっと雰囲気変えるために
私が付き合ったこと言ってみるか?
「みんな、私ね彼氏できてん。」
すると一斉にみんなが私の方を見た。
「結衣・・・?
今、なんて・・・?」
「だから、彼氏できてん。」
カラン♪
栞が持っていたビールの缶を落とした。
「結衣が・・・結衣が・・・
ウソやろ・・・?」
なによ、缶を落とすほどのことか?
「結衣が男と付き合う・・・マジ?」
「マジ、マジ、ホンマジ!!」
「「えぇぇぇぇぇーっ!!!」」
麻帆と栞は驚きすぎて
アゴが外れるんじゃないかと思うほど
口を大きく開いた。
「なんでそうなったん!?」
「何したん!?」
おまえら・・・
なんか質問の仕方がおかしくないか?(汗)