「じゃあ、よろしく頼むよ。」
雅宏は改めて右手を差し出した。
「えっ!? じゃあ・・・」
「もちろん採用だ!!
食品開発は俺の部署でもあるし、
君のような子は大歓迎だ!!」
「ホントですかぁ?」
「ああ。」
「ありがとうございます!!」
私は菊池さんの手を両手で握り締め、
頭を深々と下げた。
やったぁ!!
やったぁ!!
私は心の中で何度もガッツポーズした。
「君は何事にも前向きで
頑張り屋さんやからなぁ~」
「えっ!?」
なんでそんなこと?
そういえば、さっきも・・・
私が炭酸好きなこと知ってた?
なんで?
「期待してるで、戎さん。」
菊池さんは笑顔でそう言ってくれた。
「は、はい!!
頑張ります!!」
まぁ、そんなことどうでもええか。
それよりこれから毎日が
楽しくなりそう。
会社に勤めて、働いて、
同僚とご飯言ったり旅行したり。
そして恋愛も・・・
私の楽しい人生が
どんどん開けていく・・・
ずっと夢見てた毎日が・・・
私は希望に胸を膨らませていた。
就職決まってよかった。
そして菊池さん、
菊池雅宏さんに出会えたこと・・・
なんかちょっとドキドキ・・・
神様!!
ありがとうございます~!!
私は一人、帰り道を
スキップしながら帰った。
無事に就職も決まり、
一週間後には会社勤務が待っている。
私は中途採用で決まったので、
来週から会社での仕事が始まるんだ。
「う~ん、早く会社に行きたい!!」
私はそんな浮かれ気分で
バイト先に向かった。
バイトもあと三日で終わり、
今日も張り切ってやるかぁ~!!
私がバイトで働いているのは、
おしゃれなオープンカフェ!!
毎日いろんなお客さんが来る。
若者向きのおしゃれなカフェなので
主にカップルや女性のお客さんが多い。
今日は平日なので比較的人は少ない。
だから本を読んでる人や、
ボーっと考え事をしている人が、
ゆっくりと時間を過ごしていた。
すると同じバイト仲間の千佳が
顔を歪めてテラスから戻って来た。
「どうしたん?」
「あっ、結衣。
あの人キモイんよぉ~。」
「あの人?」
「うん、あの一番端の席に座ってる
メガネをかけたちょっと
小太りの男の人!!」
「あの人?
あの人がどうしたん?」
結衣は不思議そうに千佳に聞いた。
「アイドルグループの雑誌見て
ニタニタしてるんよぉ~
キモイやろぉ!?」
「はっ!?」
「あっ、私も見た!!」
もう一人のバイト仲間、
みどりも話しに加わって来た。
「みどりも見た?
キモイよなぁ~!?」
「うん。 ええ年の男が
あんな若い子ら写真見て
ニタニタしてめっちゃキモイわ!!
なんかオタクっぽいし!!
ありえんわぁ~!!」
千佳とみどりはそのお客さんを見て
顔を歪め引いていた。
「何があかんの?」
「えっ!?」
「アイドルグループの写真見て
何があかんのって言ってるねん?」
「結衣!?」
「あの人があんたらに迷惑かけたんか?
大人しく雑誌を見てるだけやないか?
それの何があかんの?」
「結衣・・・怒ってるん・・・?」
「あんたらだって
ジャ○ーズの写真見るやろ?
それと一緒やないか!!」
「ちょっと結衣!!
ジャ○ーズとあんなア○バ系の
アイドルグループを
一緒にせんといてよ!!」
千佳がムキになって
結衣に言い返してきた。
「一緒や!!」
「はぁ!?」
「私からしたら一緒や!!
自分が好きな芸能人を応援する!!
それに何の違いがある?
好きな芸能人を思う気持ちは一緒やろ?」
結衣は千佳の目をじっと見た。
「えっ・・・ そんなん全然ちゃうわ!!
あんな子らとジャ○ーズを
一緒にしてほしくないわ!!」
「あんな子ら!?」
「そうや、あんな服着て、
ロリコン男の気を惹いて!!
何の芸も無いやん!!」
「あんた、あの子らの何を知ってんねん?」
「はぁ!?」
結衣は千佳を上から睨みつけた。
「あんたはあの子らの何を
知ってるねんって言ってるんや!!」
「はぁ!?」
「あの子らはな、毎日毎日
厳しい練習に耐えてるんや!!
泣きながら踊って歌って、
夢に向かって頑張ってるんや!!
それをそんな言い方しやがって!!」
結衣は千佳の胸ぐらを掴んだ。
「ちょっと結衣!!」
みどりが興奮した結衣を止めに入る。
「その日が楽しければいい。
そんな暮らしをしてるあんたより、
数倍頑張ってるわ!!」
結衣はそう言うと、
掴んだ胸ぐらを離した。