車の騒音にかき消されながらもその声は届いていたようで、彼が一瞬頭を斜め上にあげた。




…歩く速度がゆっくりになる。





『あのっ!!』




だからもう一度、その背中に向かって声を張り上げた。




すると




足を止めて彼が振り返った。





せめて名前くらい。


誕生日に出会った記念に。





彼の瞳にあたしが映ったのを確認して。






『名前……名前だけでも教えて……ッ…』






これがあたしの全てを変えた。






コートのポケットに手を入れたままこっちへ体を向けた彼は、少し微笑みながら言った。




「Y高校、数学教諭。成瀬 隼人―…」