ラジールのかざすロウソクの明かりが、迷路のように入り組んだ廊下を心細げに照らし出す。彼は私の手を引いて、黙々と進んで行った。

 まるで地の底へと降りて行く、真っ暗な洞窟のようだ。もちろん私は本物の洞窟など見たことはない。ただ物語の挿絵で知っているだけだ。
 時折、崩れかけた天井と壁の隙間から月の光が差し込んでくる。そんな場所では、光に切り分けられた闇はいっそうその深さを増していた。

 半開きのまま外れそうになっている、頑丈そうな重い木の扉を、いったいいくつくぐり抜けただろう。廊下はどこまでもどこまでも、果てしなく続くように思えた。

 城のこんな奥まった場所まで来るのは初めてだった。私だけではない。父様も、大臣たちも、城に住んでいる他の50人ほどの人々も、たぶん来たことはないと思う。

「……ラジール……どこへ行くの?」

 私は段々増していく不安に耐えられなくなり、とうとう口を開いた。
てっきり、ラジールは城をのがれ、彼と同じ種族が住まう城下の街へと身を隠すのだと思っていたのだ。

「この奥に私の研究室があるのです」
「研究室……?」
「ええ。もうすぐですよ……ほら」

 ラジールの示す先に、白っぽい扉が見えた。近づいてみると、それはひどく奇妙な扉だった。素材はつや消しの金属で、今までの木の扉と違い、シンプルすぎるほど何の飾り気もない。取っ手すらついていないのを不思議に思っていると、ラジールが手をかざした。驚いたことに扉は、微かなうなるような音を立て、横にスライドしてひとりでに開いた。