「ラジール……?」

私は震え出した。すると彼の表情が動き、彫像のように立ち尽くしていた体も微かに動いた。
その拍子に、彼が手にしている金属が鈍く光る。ランドバーグを倒した武器だ。

私は思わず後ずさり、ランドバーグの体につまずいて後ろに倒れそうになった。

息をのんだ次の瞬間。
気がつくと、ラジールの腕の中に抱きしめられていた。

彼の暖かい心と体を感じて、私はたちどころに、先ほどまでの恐怖を忘れ去ってしまった。

「……姫。どうしてこんなところへ?」

彼がささやいた。その声はとても微かで、ひどくかすれていた。きっと捕まえられてから、水の一滴も与えられていないのだ。

そう思った私は、手ぶらで来た自分を憎んだ。せめて一杯の飲み水、ひとかけらのパンを、今ここで彼にあげられたらいいのに。

こみ上げてくる涙を必死で押しとどめようとしながら、私は言った。

「逃げて、早く……! でないとあなた、殺されてしまう……!」

彼の腕が一瞬、強く私を抱きしめた。

「……姫、お願いです……どうか私と一緒に来てください」

……え?

「……愛しています。あなたをこの腕から、手放したくないのです……」

思わず見上げた私の顔を、彼の黒い瞳がのぞき込んできた。

あぁ……! 何という黒さ、底のない闇……幾千の夜を、見つめてきた瞳。

その闇に吸い込まれそうな気がして、私は震えながら、そっと目を閉じた。