「まっ待ちなさい、イリアちゃん……お父さんが悪かった! お前が体を壊しては元も子もない……」

以前、ささいなことで意地を張って2週間絶食し、フラフラになったことがある私を、父は本気で心配していた。

大臣たちも私が体調を崩すと、皆、心配そうにしてくれる。だからコレが一番、効果があると私は知っていた。

私は心の中でほくそ笑みながら振り向いた。

「じゃあラジールに罰を与えたりしない?」
「うっ……」

言葉に詰まった父に向かって、宰相が言った。

「王よ。もう姫も大人になってしかるべき年齢ですぞ。今まで放置しておいたのが間違いの元だったのです。この際、ハッキリ申し上げた方が良い」

……何? なんだかいつもと、みんなの雰囲気が違う……どうしちゃったの?

「姫や。サージュを精製する術を心得ていたラジールが、あの生き物の能力を知らなかったはずがない。あやつは古の血を持つ仲間であるサージュの精に同情し、わざと逃がしたのだ。これまで私やお前が目をかけてやっていたのを良いことに、城の中を歩き回り、よからぬことを企てているという報告もあった。その罪により、今、処刑の判決が下ったところ……」

「そんなっ!……うそよ!! 彼はそんなことしないわ!!」

突然、足下から世界が崩れていくような錯覚に襲われ、私は息を止めた。

みんなの顔が、“もう決まったことなのだ”と言っている。

その情景が目の前でぐにゃりと歪んで行くのを感じて、私はゆっくり瞼を閉じた。



おかしいわ……なぜ? どうしてこんなにも突然に、平穏な日々は崩れ去ってしまうの?

明日は今日の続きだと、信じて疑っていなかった。今日が昨日の続きであったように。

それなのに……

当然、訪れて来るものと思っていたその明日は、時の狭間の中に滑り込み、今や永遠に私の手の届かないところへと行ってしまった……。