その一件が一段落した数時間後。フロントで伝票チェックをしていた時、店の入り口から見知らぬ男の人が入ってきた。いらっしゃいませと言おうとしたのだが格好からして関係者だと悟り、その証拠にその男性は私には目もくれず9号室に向かって行った。
「あ、もしかして…」
私はふと思い付く。もしかしてあの人が異動してきた社員さんではないかと。マネージャーは私の面接官でもあった人だから知っている。他のスタッフには評判悪いが、ノリがよくて面白い人だったし最初の頃はよくお世話になっていたので私は割と好きだった。そのマネージャーなら見れば直ぐに分かるけどあの人は違う。かと言ってもっと上の立場の人間がガラス割れたくらいじゃ来ないだろうし、それなら今月からこの店舗を任されてる社員さんに間違いないと思った。
「なら挨拶しなくちゃ…」
伊藤さん達の話しで確かにイメージは悪かったけど、社員さんと分かれば挨拶するのが礼儀。嫌でもこれから一緒に働く時もあるだろうし、何より私はまだまだ新入りなのだから絶対にお世話になると思った。
「初めてまして!まだ入って間もないんですが…岡崎と言います!宜しくお願いしますっ」
都合よく厨房に入ってきた社員さんになるべく明るめに挨拶する。第一印象は「痩せてるなぁ」。
それとドラゴ○ボールに出てきそうなくらいツンツンした髪型が印象的だった。一瞬の間を置いて相手も挨拶してくれた。
「今月からココ、小枝店に異動してきた金田と申します。宜しくお願いします」
それだけ言うと金田さんは作業に戻っていった。どうやらガラスがあった所に段ボールを張り付けて業者さんが直してくれるまでの応急措置をしているらしい。
そんな…特別運命的な出会いをした訳でも、インパクトのある最悪・最高どちらでもない本当に平凡出会いをした私達。
まさかこの時この人を好きになるだなんてお互い微塵も思ってなかった――――――………