「ゴメンね!先に上がるわ!
お疲れぇー!」

そうカバンを無造作に掴んだ私は駆け足で事務所を出ていった。後ろから何人かの「お疲れぇー」や「頑張って」と言うのが聞こえる。売り場の時計をチラリと見やると0時半を過ぎていた。ヤバー!!と思いつつ出入口から外へ出て、私は近くのカラオケ店に向かった。

「おはよーございまぁす」
「おはよー!!」

ついさっき「お疲れ」と言った直後に出勤の挨拶。掛け持ちしているのだから仕方ないとは分かっていたものの、この瞬間が私は非常にダルかった。平日なせいもあり店内が穏やかな事に一安心する。二階にある事務所に入り、レンタルビデオ店員の服装からカラオケ店員としての服装に着替えた。髪をまとめ、控えめな化粧も直し、いざ出勤…!

……ではなく、私は得意の早食いで前もって用意してあったサンドイッチとお菓子を5分で平らげた。先程レンタルスタッフとして6時間も働いたのにこれから1時から朝7時くらいまで休憩なしで働くのだ。少しでも空いた時間に何か食べて置かないとやってらんないよ!

お腹も満たされた後で丁度よい時間になり、タイムカード打刻して一階に降りていく。厨房に入ると先程元気よく挨拶した主婦の伊藤さんと体格の良い女の人の船越さんが仲良しげに話していた。

私はこのカラオケ店のバイトを10月から始めて約1ヶ月目くらいだ。最初はお酒の名前や作り方もサッパリだったし、深夜勤務なので酔っぱらいが多くて面倒だったし、掛け持ちで睡眠時間も少ない。だから体力的にも精神的にもキツかったけど、それが少しは慣れた頃だった。

それなのに来月はよりによって12月!世間は冬休み・クリスマス・年末年始とカラオケ店なんて一番忙しい時期だと思う。
慣れてきたとはいえ、まだまだ分からない事だらけで全然仕事できなかった私は絶対に皆の足手まといになるのが目に見えている。
そう考えるとめちゃめちゃ憂鬱だった。

でも出来るだけそうならないように!と私は料理のレシピや仕事のマニュアルと必死に睨めっこ。マニュアル見るより実際にやった方が良いんだろうけれど深夜なので客数が少なく、それも中々できないでいたのだ。