「一回きりだからね」

そう言って姉はメールを打ち始めた。


オレが弟であること、
大体の事情は聞いたので、
もしその気がないのなら
隼人にあきらめさせるためにでも
連絡出来るならしてほしい。

と。


この後に

『本当は陽ちゃんの事情を知って
いるからこうやって連絡するのも
乗り気じゃないんだけど、
どうしても弟に頼まれて断れなくて
ごめんね。』

と姉が追加でメールをしていた事を
オレは知らない。

そして、

『陽ちゃんの事情』

を知るのもまだ先のことだった。



「ありがとう。
これで連絡きたら、
香陽に地下のピアノやるよ」


「うっそ。いいの?」


「うん。
今のオレにとっては陽が一番で、
ピアノはまた買えるけど、
陽は買えないしな」


そういって部屋を出ようとして
思い出した。