香陽は駄々をこねる子供のような顔を
母親に向ける。

「確かにあのピアノは、香陽と隼人の
二人のものだけど、隼人の商売道具
だしね。
香陽だって、仕事に着ていくスーツが
一着もなくなったら困るでしょ?」

母さん、その例えはなんだかおかしいよ…

言えば木阿弥なのでオレは黙っていた。

「まあしようがないか。
その代わり!あんたがもっと売れっ子
ミュージシャンになったら新しいピアノ
買ってもらうことにするわ。
ってだいぶ先か…」

ペロッと舌を出すと
オレが文句を言う前にそそくさと
リビングから逃げて行った。

「あの減らず口、誰に似たんだ?」

オレは母親を見る。

聞こえないふりをして鼻歌を歌いながら、
母はレタスをちぎっている。

「今日はご飯食べるの?」


「食べて来た」