亮さんに電話をして明日内見を
させてもらうことにした。

電話を切った時に
姉の香陽が帰ってきた。

「あー疲れたっ。
あれ?隼人がこんな時間にいるの
珍しいじゃん
お仕事なくなっちゃった?」

と嫌味も忘れない。

「こはるちゃん!隼人がね、
ついに家出することになったのよ」

興奮しながら母親がキッチンの
カウンターから顔を出す。

「家出ってさ、普通気付かれずに
するもんじゃないの?
まだいるし、しかもバレてるじゃん」

と姉は笑っている。

「家出じゃねえし」

「ふーんついに自立ですか?」

「30歳を目前にしたお姉さんに
言われたくないのですが?」

「はいはい、二人とも喧嘩しないで
ちょうだいよ。」
と母が言う。

いつものやりとり。
三歳上の姉とは仲がいいほうだと思う。

「で、隼人、本当に家出て行くの?」

スーツの上着を脱ぎながら姉が聞く。

「うん。亮さんとこの防音マンション
が空いたんだって。」

ふーん と言いながら、

「え!!」

と素っ頓狂な声を出す。

オレと母親は姉を見つめる。

「何だよ?」

「てことは地下のピアノも一緒に
家出?」

まあそういうことになるな

「えー 私だってたまにはあのピアノ
弾いてストレス発散してるのに!
ママ何とか言ってよ」