いつしか蝉の声も遠のいて、
季節は秋になっていた。


おかげさまで仕事だけは順調。

今日は録音で一日スタジオに缶詰。

でも夜のステージじゃないし、
人並みな時間に帰れるのは有難い。


ゆらゆら心地よく電車に揺られて
駅の改札を抜ける。


「隼人!」

振り向かなくても
誰か分かっていた。


連絡を無視し続けてそろそろ1ヶ月。
同じ駅なのに今まで会わなかったのが
不思議なくらいだ。


「待ち伏せ?
趣味わりーな」


ふくれっ面のアコが立っている。

「なんで連絡くれなかったの?」


立ち話で別れ話なんてしても、
アコが納得しないのは分かっていた。

「メシ、行こ」


近くのファミレスに行く。


「何で珍しくファミレスなの?
お酒大好きなはやとくんが」


今日はアルコール抜きで
きちんとケリをつけたかった。


「まだ仕事残ってるから」


ふーんと言ってアコは
メニューを眺める。

「まいっか、やっと隼人に会えたし!」