「隼人!」

人込みで呼ばれてオレは後ろを振り向く。

ありえないのに淡い期待を抱いて。

そこにいたのは、

アコだった。


「どうしたの?今日は演奏ないの?」

明らかにオレの顔は歪んでいたと思う。

「ないよ」

疲労が一気に押し寄せる。

「一緒に帰ろうよ」

アコは電車に乗ってからも一人で話し続ける。

「今日営業くんがねぇ…

ねえ聞いてる?」

聞いてないよ。

「営業の内野くんがお誕生日祝ってくれるって
言ったんだけど、断って帰ってきちゃった。
だって隼人が祝ってくれると思ったし!
今日偶然会ったのはやっぱり運命だよ!」

一人ではしゃぐアコを見ながらうんざりする。

あそうだ。


「紙とペンない?」


アコは不思議そうに
カバンから手帳とペンを出す。

オレは陽のアドレスを書いて一枚破って
手帳をアコに返す。

「ありがとう」

「なに?なに?」



オレは窓の外をみる。