「アエヌって誰?」
私は真剣な表情の二人に聞き返した。私の名前は、亜美だ。

「アエヌ様、時は満ちたのです」
母が私に向かって強く言った。
「もう貴女はここにいるべきではありません」
父が続けて言った。

私には意味が分からなかった。

「お父さん、お母さんも何を言ってるの? ここにいるべきではないって……」
私は何となくその意味を知っているような感じがしていた。胸の中がざわざわと落ち着きがなくなり始めているのを感じていた。それでも分からないと思っていた。分からないままでいたかった。
「私は……」
「「アエヌ様お戻りを」」
「私はっ……」
私は急に痛み出した頭を抱え、目を閉じた。

閉じた先に見えたのは、亜美の知っている部屋じゃない。
ここは、
「ここは……『私』の世界」
『私』の知っている、アエヌと呼ばれる私の世界が目の前に広がった。

もう戻れない。目を閉じてももう何も見えない。『亜美』であった私の世界は、もう何一つ見えなかった。