卒業式の日。
隆司のお母さんが
先生に挨拶しに来ていた。
隆司のお母さんは私に気付いて優しく笑った。
私は聞きたいことも知りたいこともいっぱいあった。
でも何も聞けない。
聞いたら私、
どうなっちゃうのか。
聞いたら何かが変わるのか。
何もわからない私に
隆司のお母さんは
「隆司は卒業できなかったけど…」
悲しそうに笑って
私の手を握った。
その手はあたたかくて。
なんだかやさしくて。
私の手のひらに何かを握らせた。
「隆司の制服の…第二ボタンよ。あの子はあなたに渡したかったはずだから。」
そう言ってゆっくり去った。
私はボタンを握りしめて
2人よく話した音楽室
初めてキスした図書室
並んで歩いた階段
ろうか教室。
ぜんぶぜんぶ
忘れないように
目にやきつけた。