「何やら忙しい仕事をしておったぞ。あちらも姫の事で悩んでいる。そなたは助けがいらぬようだが、巧には妾の力が必要じゃ」


ちゆ様は両手を上に上げた。

地を叩きつけるような大きな音と共に、下のホール中に無数の線が現れた。

龍神の通り道、龍道だ。


「そなたもいい加減に姫の傍らに行きゃれ」

ちゆ様はそう言い残して、龍道を渡って向かい側のテラスに行った。


行くか

僕だって志鶴の側にいたい。

今夜こそ彼女の気持ちを聞き出して不安を宥めよう。

必要とあれば泣き落としで。

彼女の優しさにつけ込む事になっても。


僕もまた龍道に沿って一歩歩き出した。

すると次の瞬間、ホール中の明かりがパッと消えた。


しまった! 志鶴!


僕は急いで龍道を抜けた。


志鶴は極端な恐がりで、暗闇が大嫌いときてる。

僕が近寄った時には案の定、友達にしがみついて僕の名前を繰り返していた。

かなり動揺していたのか、僕が『志鶴』と呼んでもすぐには気付かない。