早い話、早裕は彼氏を取っ替え引っ替えしていると言うことらしい。
「でもね、さいきんはさーねー、おうちにおにいさんいっしょにこなくなった」
「そうなの?」
「うん。それでちょっとしたら、わとおねえちゃんたちがきた」
「そうなんだ」
急に誰も連れてこなくなった早裕。
そして、怪盗仮面の依頼。
もしかしたら、次の早裕の目的は紘哉だったかもしれない。
「どうですか?」
恵一が恐る恐る尋ねる。
羽兎は、一つ頷き立ち上がった。
「聞きたいことはこのくらいかな」
「そうですか……じゃあ俺から一つ」
彼はしゃがみこみ、隼美と目線を合わせた。
「アンタ、早裕さんと優さんの区別はつきますか?」
「あたりまえじゃん」
恵一の問いを一蹴する隼美。
さすがの恵一も隼美に背中を向け、大げさにへこんだ。
「ご、ごめんね!バカな刑事さんが変なこと訊いて」
「うぅ……」
羽兎は、隼美に手を振りながら恵一を引きずって帰っていった。
「自分で歩くから襟首掴まないで下さいよ」
「じゃあ、バカな質問しないでね?一応あの子と双子は姉妹なんですよ?」
「一応確認のつもりだったんだけどなぁ……」
「とにかく、紘哉さんの所に戻りますよ!」
二人の背中を隼美と夕日が見送った。
「ほう……そんなことがあったのか」
時間も場所も変わって紘哉の部屋。
夕食を食べた三人は、紘哉の部屋に集合していた。
あの後モタモタしていた恵一は、ちゃっかり夕食までご馳走になっていた。
羽兎は彼に隼美との会話を報告した。
「……と言うことで、隼美ちゃんはシールを剥がそうとして誤ってブレーカーのスイッチを押しちゃったワケ」
「だろうな。あそこにシールが貼ってあること自体が怪しい」
「ついでに二人の恋愛事情……は、関係ないか」
「あるけど大体は想像がつく」
恵一が驚いたように顔を上げる。
「お前なんかに恋愛事情が分かんのか?」
「当たり前だ。別に疎いわけではない」
「ふーん……」
彼は興味無さそうに明後日の方向を向いた。
羽兎は羽兎で、さっきから紘哉をチラチラ見ている。
「あのさ、紘哉さん……」
「何だ?」
羽兎は意を決したように、紘哉の顔をキッと見つめた。
「何でそんなに偉そうにしてるの?」
「……あ?」
彼はひじ掛け椅子に腰掛け、肘をついていた。
尚且つ、近くのテーブルの上に足まで伸ばしている。
「ふてぶてしい事この上なし」
「いいじゃんか。俺はこの後一仕事あるんだし」
「一仕事?私達が必死になって事情聴取してた時に何してたのさ!?」
「あー……冷やしてた」
「はい?」
羽兎が半分睨むような顔で紘哉を見ると、彼は立ち上がって冷蔵庫に近付いた。
そして冷蔵庫から《ある物》を取り出す。
それを羽兎に投げて渡した。
「コレって……宝箱?何で?」
「使うからに決まってんだろ」
興味津々で箱をいじる羽兎とは対照的に、恵一は顔を強ばらせた。
「お前……何考えてるんだ?」
「何って事件の事だが?」
「そうじゃなくて!だってあの箱、超小型ナイフが入ってるんじゃ……」
「んな危険物入ってるわけねぇだろ。バーカ」
紘哉はキッチリとネクタイとスーツを整え、二人の前に立つ。
「ワトコ、その箱返せ」
「う、うん。分かった。で、どこ行くの?こんな夜遅くに」
時計の針は11時を指していた。
良い子ならばとっくに寝ている時間だ。
紘哉は羽兎から《宝箱》を受け取ると、ニヤリと笑った。
「事情聴取だ。11時にって早裕さんに呼ばれたんだよ」
そう言って彼は部屋を出ていった。
頭を過る嫌な感じ。
羽兎は腕をさすった。
「なーんか嫌な予感がするんだよね」
「奇遇ですね。俺もだ」
取り残された二人は、ただ悪魔の笑みを浮かべた探偵の帰りを待つしかなかった。