彼女は20代にもかかわらず、ショートボブという髪型もあってか、二重の大きい目がいっそう目立ち、ヘタをすれば高校生に見えるくらい若々しくて可愛らしい容姿をしていた。

そんな彼女はけっして健康的というほどの体格ではなかった。

どちらかというと細身で、華奢な体つきをしていた。

それにもかかわらず、一度こうと決めた事柄は最後までやり通すという頑固な一面もあり、芯が一本通った性格は女性なのにとても心強いと思った。


だが、彼女の性格はそれだけではない。

彼女独特の雰囲気はとても穏やかで、何でもそっと包み込んでしまうような、そんなあたたかな人でもあった。



彼女はもう天国に逝ってしまったけれど、今でもぼくの心の中に生きている。

だから彼女は常にぼくと共に我が子の成長を見守ってくれているとそう言い切れる。


――だが、祈は違う。


祈は沙良の――母親という存在を知らない。

もちろん、祈には沙良がどういう女性だったのかを話して聞かせていたし、彼女がどれだけ祈が生まれてくるのを心待ちにしていたかということも話した。


しかし、彼女の話を聞くのと実際に会うのとではだいぶん違うだろう。


祈には母親が必要だ。

今は大丈夫だが、この先祈が思春期になり、女の子の悩みを抱えたとしても男のぼくがそれをうまく解消してあげることができるのかと訊(キ)かれれば、正直言って自信はない。