「何これ?花音、このバーによく行くの?」


普段あまり飲みになんて行かないあたしだから、遥はいっそう不思議そうな顔で尋ねてきた。


唯一心許せる存在の遥。


だから、あたしは昨日のできごとを全て話した。


「じつはね、昨日たまたまディナークルーズで弾いていたピアニストの人から、ここで弾いてるってそれを渡されて。昔好きだった人に似てたから、ちょっと気になっちゃって」


先生のことは、それ以上口にしようとは思わなかった。


ううん、できなかった。


少し口にすることさえ、感情の抑えがきかなくなる気がして怖かったから。



「へぇ~、昔好きだった男にそんなに似てるんだぁ。そんなことがあるもんなんだね」


「うん、ほんとにそっくりだった」


すると遥は、大きな二重の目を輝かせながら、あたしに詰め寄った。



「っていうか、花音!それって誘われてるんじゃん!あんたにこれを渡すってことは、また会いたいからでしょ?」


ニヤニヤとしながら、遥はあたしの目を見つめる。


「えっ……でも、ただピアノを聴きにきてほしいだけだと思うけど」


そんなあたしの返答に、遥は呆れたように大きなため息を吐く。