「あの…私、先生にちゃんとお別れを言えてなくて。それで……」


震える拳をギュッと握りしめながら

言葉にできない思いを、必死に声に出す。



そんなあたしの手を、薫さんは包み込むように握りしめてくれた。


顔を上げれば、優しい目であたしを見てくれている薫さんがいた。



「緊張しないで、落ち着いて。永都に手を合わせに来てくれたのね?」


「あ……はいっ。あの、あたし…っ!」


深く息を吸い込んで、そして口をまた開いた。


「先生が亡くなったあの日、先生と会う予定でした。先生のことをずっと待っていて、だけど先生は来なくて…。その次の日に先生が亡くなったことを知って、お葬式の式場まで行って、だけどどうしても中に入れなくてっ……」