「今日はね、貸し切り営業が終わったところなんだ。少しピアノを弾いてから帰ろうと思ってたところ」


ネオはそう言いながら、ピアノのイスに腰掛けた。


「そうだったんだ。ごめんなさい。知らなくって来ちゃった」



鍵盤に置かれた白くて細い指を、無意識に目で追う。


ネオの指は準備体操のように、即興演奏でメロディーを紡ぎだす。



思わず見とれてしまう指の動きに、あたしはゴクリと息を飲んだ。



「せかっくだから、今夜はキミのために弾こうか」


ピアノの上に置かれたグラスを手にとり、氷を鳴らしながらネオは言った。


甘い言葉に、思わずあたしは赤くなって俯く。



「花音、キミだけのために」


そう言って、ネオはまた鍵盤に指を戻した。