悠貴の言ったとおり、あたしは誰かから必要とされる存在じゃない。


ただの契約社員が、結婚しても仕事を続ける意味なんてないのかもしれない。



それでも、仕事や会社に愛着はあった。


っていうより、今のあたしにはそれしかなかった。



5年前、あたしが20歳の頃だった。

今の会社に就職したのは。


あの頃、あたしは落ちこぼれ音大生で。

先生を失った痛みから、音楽に対して向き合うこともできないでいた。


結局2年目で音大をやめて、今の会社に就職した。



一流大企業メーカーの、契約社員。

事務の仕事で、いくらでも代わりがいるような仕事。


それでも、新しい仕事が与えられれば全力で頑張ってきたつもり。



会社にとっては簡単に切り捨てられる存在かもしれないけれど。

あたしはただ、まじめにこの仕事に打ち込んできた。


ううん、“余計なこと”を考えないために、仕事をしてきたのかもしれない。




それだけで、忘れられた気がしたから。



“あなた”を失ったあの日のことを……。