あのときの詳しい映画の知識や、夢を語る裏にはそういう事情があったんだ。


彼への疑問の点が線につながって、人となりが、またひとつ分かった気がした。


「夢をあきらめて、仕事に生きていた私は、ようやくある程度の役職につくことができて、少しの自由を手に入れました。そんな解放感も手伝ってか、遅まきながら恋愛をしようと思い始めたんです。やっと。その矢先に出会ったのが、雛子さんでした」


「だから私に……」


「誰でもよかったわけではありません。恋愛の目で女性を品定めしていたわけじゃないですから。ただ、あのときに間近に見た笑顔が心から離れなくて。理屈を超えた、不思議な感情がいきなり沸騰したんです」


「…………」


彼が私に惹かれた理由、彼の生い立ち。


話してくれる恥も外聞もない言葉が、私の心に届いてきた。


自分も同じように、理屈を超えた感情が沸騰して、10年以上も片想いをしている身だから。


だからこそ、誰よりも共感できた。


だからこそ、このまま彼を私と同じ目に遭わせたくない。


「分かってます」


胸のうちを見透かしたように、市村さんは告げた。



「あなたに、好きな人がいること」