「雛子さん」


「…………」


返事すらできないでいると、市村さんがふいにつぶやいた。


「実は、ぼくからも大事な話があるんですけど」


「えっ?」


もしかして、好きですなんて告白だろうか。


こっちが別れを持ちかけるつもりだというのに、このタイミングでそれはまずい。


「雛子さんが、ぼくが頼んだ本を一緒に探してくれたあの日。思えば、あの日からぼくはあなたに惹かれました」


「そうだったんですか……」


薄々、気づいていた。


「雛子さんは、ただ接客をしただけかもしれないけど、ぼくにとってはその優しさが、すごく嬉しかった」


「…………」


「もちろん、『ぼくだけに優しくしてくれた』なんて勘違いはしていません。けど、見つかった後の『よかったですね』の笑顔に、一目惚れをしてしまったんです」


詳しく思い出話をしてくれる彼には申し訳ないけれど。


私の胸は、今にもにぎりつぶされそうだった。


注射を待っていて、いざ自分の番だというときに、列の最後尾に戻されたような感じ。


どうにも落ち着かない。


「それからは、1年間ずっとあなたのことを見てきました。本を探すとき、指名して電話をかけたり。来館したときにはあなたを探したり。一歩間違えれば、ストーカーだと思われても仕方がないくらい、追いかけてました。さすがに、家までつけるとか、そんなひどいことはしませんけどね」


話を聞きながら、私はなんだか昔の自分に似ているなと感じていた。


私の場合は、彼の家まで知っていたから「ひどい」のかもしれないけれど……。


市村さんは、なおも続ける。