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「お疲れ様」
仕事が終わって事務所に入ると、博美さんがパソコンの画面から目を離して言った。
「お疲れ様です」
「いよいよ明後日ね、フランス行き」
「はい……」
「緊張してる?」
「いろんな意味で、とっても……」
事情を知っているからか、博美さんはバカにするでもなく微笑む。
「大丈夫よ。準備は万端だし、フランスはいいところよ。彼のことも、心配はいらないって。面と向かって告白して、答えを聞くだけ。あなたならできる」
「ありがとうございます」
ところで、と博美さんがきょろきょろと部屋を見回した。
「二ノ宮さんは?」
「あ、化粧を直すからって、トイレに行ってます」
「そう」
「博美さんは、今日も残業ですか?」
「いいえ。ちょっと開いてるだけ。今日は旦那が出張だし、もう帰ろうと思ってるけどね――そうだ。暇だったら、チャクラ行かない?」
明日は1日オフだし、これから予定なんて入っていない。
私は、ふたつ返事でOKした。
「決まりね。じゃあ、二ノ宮さんも誘って行きましょうか。いつものメンツで、変わり映えしないけどね」
パソコンを消しながら立ちあがった博美さんとともに、私は事務所を出ようとした。
ちょうど戻ってきた美咲を誘い、チャクラへ行こうと図書館のドアを開いたところで、電話が鳴った。
「誰かしら?」
「あ、私が出てきます」