俺は目を瞑った。
 覚悟を決めて。


「やってくれ……」


 恐怖からか、怪我の痛みからか、自然と息が荒くなる。






 刹那、世界中の音という音が遮断されたように感じた。



 体中に何かドロドロしたものが付着する。




 あれ……?

 全然痛くない。


 俺は不思議に思い、おそるおそる目を開けた。


 そこには、真っ赤な服を着た――いや真っ赤な血に染まった服を着た千秋の姿があった。
 俺に付着している血は、千秋の返り血だったんだ。


「あ……ちあ……」

 目の前の惨劇に、思わず後退りする。
 赤に染まった千秋が、ゆっくりと地面に倒れる。

「千秋っ!!」

 我に返って、千秋を支える。
 血が俺の肌や服に付いてぬるぬるするが、そんなことにも気を止めない。

「千秋……どうして!!」

 千秋は自分で自分を刺したんだ。

 千秋は今にも閉じてしまいそうな瞼を必死に開いて、俺を見る。
 そして、言った。



『愛してるから……』


 その瞬間、すっと暖かい光に包まれて。

 千秋は消えた。

 俺に付着していた千秋の血も、すっと消えて無くなった。
 俺の肩とふくらはぎの傷も、いつの間にか癒えていた。

 まるで、今起こった事は全て夢だったかのように。

 でも、夢で無い証拠に、俺の頬を一筋の涙が流れた。


「千秋……」

 俺は、もう何もない空間を見つめて言った。


「愛してる」