『くすぐった……』

「お前が起きないから悪いんだぞ」

『――んじゃあ、どうすっか?』

「どうするって……」

『お前もいつ襲われるか分かんねぇぞ』

 いつ襲われるか――
 俺が、千秋に?
 千秋が、俺を?
 ――――襲う?

「千秋が俺を襲うって言うんですか?」

『まぁなぁ……』

「千秋はそんな事っ――!!」

 否定しようとした時、
 その時、直樹さんの背後に、



「千……秋…………」



 千秋が、立っていた。
 長く鋭い爪を蓄えて。
 冷たい目で俺を見て。

 ――長い爪……私に……!!――
 千秋が京介に襲われた時に聞いた言葉が頭を過る。

 鬼なのか? 千秋。
 お前は、鬼になったのか?
 そして

『……どうした?』

 お前は、俺を襲うのか?
 千秋……。



『椿』

 千秋が、俺の名を呼んだ。
 今までと変わらない声で。

『標的を殺れば、私は生まれ変われるの……私の標的は椿なの』

 千秋は爪の矛先を俺に向けた。