人間、本当に驚くと声が出なくなるんだな。
 駭然、愕然、驚愕、茫然。
 この気持ちは言葉で表せない――絶望。

 脳がうまく働かない。
 頭がうまく回らない。

 力が抜けて、俺は地面に膝を付いた。
 消える瞬間を見ていた通行人の声が何となく聞こえ、思考が戻ってきた。

 千秋が、消えた――。

 俺が抱き締めていたのに……今まで触れていたのに……傍に居たのに……守れなかった。

 ――――守れなかった。

 絶望と喪失感が俺を支配する。
 胸にぽっかり大きな穴が開いたような気がした。


『大丈夫か、君!?』

 誰か――警察? に話し掛けられたが、答える気力が無い。

 そのまま警察に連れられて、何か質問されたりした。
 良く、覚えていない。

 千秋の両親が泣いていた気がする。
 俺の母親も涙ぐんでいた気がする。
 警察が途方に暮れていた気がする。
 俺は、泣いていなかった気がする。

 どうしてだろう。
 泣けないんだ。